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   名前を聞いたこと以外、どのように話しかけたのかは覚えていない。  というのは、昔の記憶であることもあるが、何よりそれが音として残らなかったからだ。  彼女にも、そして俺にも少ないながら文字があった。その時、俺は無理矢理させられていた勉強に初めて感謝した。  食い扶持を減らすために子を売るような家にいた彼女が、どうして文字があったのかはわからない。わからないが、それがあったから俺と彼女は繋がったのだ。  その、三日後。雨が降った時。俺は、彼女が雨の日は外に出ないことを知った。親が、出さなかったのであろうとは思った。また、そうであってほしいと思った。  雨が降る。それは、弱ければ弱いほどいいのだ。強ければ、淵は澱み、渦を生む。  そんな姿をした川を、彼女は見たことがあっただろうか。  さすがに十年以上も経った今も、生きているのなら目にしたことはあるだろう。しかしあの時の俺は、彼女に怖さを、悲しみを与えるものは要らなかった。知る必要も、なかった。  みね。  お前は今、どこにいる。  
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