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   藤堂という男が持ってきた話だったからか。それとも単に面白かっただけなのか。  屯所の中にその芸妓の話が広まるのは、ごく自然なことだった。  狼と呼ばれた男どもだ。俺も含め、風流が似合う者などほんの僅かしかいるわけがない。  しかし、誰にも顔を見せないという一風変わったその芸妓は隊士たちの中で、まるでかぐや姫のような不思議な魅力を持つ女になっていた。  俺自身、人並みに女に興味を持つ男であったのは今更言うまでもない。それなりに、江戸にいた頃から色々好き勝手なことをしてきた。  だが、対象になるには姿形の美しさももちろんその要素に入るわけで、姿を見ることなく恋う者を見て、呆れているのが俺だった。そしてこの話を聞いた時も、そうだったはずだった。  しかしお決まりというか、俺は今、役付きたち数人と島原のとある遊女屋にいる。 「その芸妓、いつになったらこちらに?」  藤堂と、その相手をしている芸妓の会話が、右から左へ抜けてゆく。 「今は楽器のお手入れをしてる頃と思います。そろそろこちらに来ることかと……」  京独特の抑揚に、少しばかり郭詞が混じっている。  
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