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   毎日、私は川原へ行く。雨が降らないかぎり。  何をするわけでもなく、座って見ている、川の流れ。そうしていれば、いつか彼は来てくれたから。  紙を手で丸めたときのような、柔らかい、草を踏む音。さくりさくりと近づいてくるその音は、年齢に似合わず速くはなかった。  それを聞いた私は振り返る。すると、彼は笑ってくれるのだ。笑うと本当に子どもっぽい、そんな笑顔で笑うのだ。そして、私もつられて笑うのだ。  彼には兄弟がいなかったのか、妹の世話をしているようなつもりだったのか。優しくて、小さなことに気付いてくれた。度々持ってきてくれた菓子は、甘くて大好きだった。  表情と仕草と指で交わされた会話。  どれほど楽しかったか、どれほど救われたか。  それはわかりすぎるくらい私の中に残っているのに、内容はさっぱり覚えていない。今になって、本当に悔やまれてしまう。  でも、そんな曖昧な記憶の中で一つ、はっきりと覚えていたのはやはり、この白いものが今もここにあるからなのだろうか。  
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