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長倉の話が終わっても、私は彼を見つめたままだった。彼はずっと川を見たまま、私の頭を撫でていた。
そこに横たわるのは、間。そしてまるで謀ったかのように、ざあっと風が草を揺らして通り過ぎてゆく。
昼から夕方に移り変わり、夜までの一番儚い、そして美しい色。金とも赤とも紫とも言えぬ色に支配された川。
お前はそうして何度も色を変えながら、母の元へ還ってゆく。水のいのちの全てを司る、一人の母の元へ。
「……海、見せてやりたいな、お前に」
私の溢れる感情を全て知ってしまっているかのように、彼は言う。
「うん、いつか見せてやる。連れてってやるよ、海に」
長倉と並んで見ている、この川は美しい。滅びることなどないかのように、遠くはるか遠くから流れ。私の目の前を通り、そして海へ。
母。
川の母は、私の母だ。
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