5/7
361人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
   長倉の話が終わっても、私は彼を見つめたままだった。彼はずっと川を見たまま、私の頭を撫でていた。  そこに横たわるのは、間。そしてまるで謀ったかのように、ざあっと風が草を揺らして通り過ぎてゆく。  昼から夕方に移り変わり、夜までの一番儚い、そして美しい色。金とも赤とも紫とも言えぬ色に支配された川。  お前はそうして何度も色を変えながら、母の元へ還ってゆく。水のいのちの全てを司る、一人の母の元へ。 「……海、見せてやりたいな、お前に」  私の溢れる感情を全て知ってしまっているかのように、彼は言う。 「うん、いつか見せてやる。連れてってやるよ、海に」  長倉と並んで見ている、この川は美しい。滅びることなどないかのように、遠くはるか遠くから流れ。私の目の前を通り、そして海へ。  母。  川の母は、私の母だ。  
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!