「籠の鳥」

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 大丈夫。僕は、知っていたよ。  君が僕を嫌っていたこと。  君が僕を恐れていたこと。  君が僕を憐れんでいたこと。  口では愛していると言いながらも、本当は何ひとつ、僕に預けてくれたものはなかったということ。  大丈夫。僕は知っていたよ。知っていたけれど、それに君が気付いたことはなかったのかも知れないね。嫌悪も、恐怖も、憐憫も、そんなことには何も気付かない、馬鹿な男でよかったんだ僕は。それで君が傍にいてくれるなら。  大好きだったよ。本当に君を愛していたんだ。  君がそこにいるだけで僕の全ては色づいたし、君がそっと微笑うだけで、僕は世界の全てを愛せた。時にはどうしようもない君への想いで狂気に蝕まれそうにもなったけれど、そういう想いは、全て消した。君に気付かれたりしないよう、君がこわがったりしないよう。僕の全ては、君によって決定されていたようなものなんだよ。  君には、それがもう異常だったのかも知れないね。君はそれこそ全てを愛する、まるで聖母のような女だったから。  そんな君が、好きで好きで仕方がなかった。君がいればもう何もいらなかった。  清潔すぎるくらいの君も、潔癖にすぎるくらいの君も。僕だけが君を汚せる悦びも、僕だけが君を侵せる歓びも。愛しくて、愛しくて愛しくて。いつしか自身のその気持ちで押し潰されたとしても、僕は後悔しなかっただろう。  だから、逃がさなかった。逃がす訳にはいかなかった。それは僕の傲慢だけれど。  君がただの同情や憐憫だけで僕の傍にいるのなら、それはそれでよかったよ。僕は最高に可哀想な男でいてあげる。  だって僕は知っていたんだ。君が、その性ゆえに僕から離れられないこと。  君は誰かを憐れむことでしか、誰かを癒すことでしか、誰かに愛されることでしか、自身の存在意義を確かめることができない女だったから。  だから君は、僕から逃げられなかった。逃がすつもりもなかったよ。全ては君を愛するがゆえ。  残酷だと、非情だと、異常だと。  言う奴がいたら言えばいい。僕にそんな言葉が届くはずもない。このおかしな頭にはもう、何が正常で正しくて、何が異常でおかしいのか、その判断もつかなくなっていたんだから。
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