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108――僕はその数字が大嫌いだ。
僕がその数字を初めて目にしたのは、父の初七日。
テレビの画面だった。
平等院鳳凰堂――ゴシップ文字でそう写されたそれは、人の煩悩の数だそうだ。
規則的に――まるで電話の通話が途絶えた時の音の様に、反芻される鐘の音が聞こえていた。
やがてテレビからは、新年を迎えた歓喜のざわめきが聞こえて来る。
まったく、どうして新年を迎えられる事がそんなにうれしいものか、僕が知った事ではないが――。
不意に携帯が震えた。
『あけましておめでとう♪』
素っ気ない文章だ。第一年を明ける事がめでたい?
何処がめでたい。そんなの結局、一個人の観念でしかない。
部屋で寝転んでいると、妹が入って来た。
「お兄ちゃん、あけおめことよろ♪」
舌ったらずな喋りで、僕の胸に温もりの火が灯る。
髪に触れると柔らかい。
人は少なくとも108の感情があり五感がある。
成る程どうして、それはやっぱり“おめでたい”。
「――――あけおめ」
僕の胸では、妹がえへへと笑っていた。
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