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「それで、どうなのよ?」
煙草に火を点けながら仁美(ひとみ)が聞く。
「なにが?」
私は聞き返した。
閉店間際の薄暗い店内には私と、カウンターを隔てて立っているこの店の主、仁美ママだけだ。
「だがら、広田くんよ。莉子のこと、かなり気にいってたみたいじゃない?」
「そうかしら。まぁ今のところ、連絡は毎日くるけど……」
「けど、なによ?」
「……わかんないわよ、まだよく知らないし」
私はすっかり温くなったビールに口をつける。
「やっぱり私、ビール駄目だわ。カクテルにしようかな。チャイナ・ブルー、お願い」
話題を変えよう、という私の思惑を察知したかのように、いかにも彼女らしい言い方で仁美が続ける。
「いいじゃない、つき合っちゃえば。莉子はまだ若いんだし、ダメだったらダメでさっさと別れて、次いっちゃえばいいのよ」
「そんな簡単に言わないでよ」
私は思わず苦笑してしまう。
「ま、確かにいい人なんだけどね」
「いい人、ねぇ……未だ、愛しい彼以上の人は現れないってわけか」
図星でしょ? とでも言いたげな仁美の視線から逃れるように、ビアグラスを見つめる。
「でも、いい想い出にしちゃっといた方がいいのかもよ」
「想い出?」
「そ。夢は夢のままだからいいの。恋愛はファンタジー、結婚は現実」
仁美はきっぱりと言い放った。離婚経験者の彼女が言うと、なんだかやけに説得力がある気がしてくる。
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