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仁美にはかなり年の離れた妹がいて、私は大学の時、その子の家庭教師をしていた。仁美とは十歳も年が違うのに、私たちは何故か、妙に気があった。私の大学最後の夏休みには二人で九州まで旅行したこともある。
そう、仁美はあの夏、私に起こった出来事を知っているのだ。
夏の恋。
海沿いに上がった花火。
夏の記憶。
「結婚て、そもそも何の為の制度だと思う?」
私はふと浮かんだ疑問を口にした。
「……私だってわかんないわよ、そんなこと」
仁美は出来上がったカクテルを差し出しながら考えていたのか、少し間を置いて答えた。
「ま、少なくとも私は結婚には向いてなかったのかな。」
またしても彼女らしく、けろっと言ってのけた。
「一番好きな人とするもんだと思ってたんだけどなぁ……」
私は独り言のように呟いて、仁美の作ったチャイナ・ブルーを一口、飲んだ。
ライチ・リキュールの香りがやけに染みる。
「答えがでない事は考えないことよ。考えてもわかんないんだから」
さりげなく、でもさらっと私を慰めてくれる。
「明日、仕事なんでしょ?」
気がつくと時計の針は十一時を少し回っていた。
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