第五章 心の一日

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「土方さん、おはようございます」 心は襖ごしに何度も言った。 返事はない。 まだ夢の中のようだ。 心と沖田はそぉっと襖を開けた。 そこには、着物ははだけ、口を大きく開けて寝ている土方の姿が。 「だらしない…」 眉をひそめた心が呟いた。 「鬼の副長形無しですね」 沖田は苦笑いだ。 中に入り、再び襖をそぉっと閉め、土方の傍へ行った。 沖田が土方を起こそうと手を伸ばしたとき、心が遮った。 「…心さん?」 心は唇に人差し指をあてた。 その姿に顔が火照るのを感じ、沖田は隠すように何度も頷いた。 「遊郭ごっこ」 潜めた声で心は言うと、土方に近寄った。 そして土方の体を軽く揺すった。 「土方はん、起きとくれやす。朝どすえ」 沖田は思わず笑ってしまった。 何故か京言葉は妙に上手い。 しかし、心の幼く見える容姿に合っていなくて可笑しかったのだ。 「土方はん」 心は土方を少し強く揺らした。 なかなか起きない。 「土方…っ!?!?」 急に土方は心の腕を掴んだ。 そのまま布団の中へ引きずり込もうとする。 畳みに手をつき、必死にふんばりながら心は叫んだ。 「土方さん!寝ぼけないでください!土方さん!!」 まだ土方の力は緩まない。
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