§1 日々・皹(ひび)

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 オレンジ色の野菜ジュースを、右手でコップに注ぎながら左手でテレビを消した。表面張力(落書きだらけの理科の教科書に書いてあったっけ)で丸みを帯びた液体は、微(かす)かに震(ふる)えている。  切ったばかりの髪は、久しぶりのショートカットで、タオルで拭いただけで大分頭が軽い。体は熱いシャワーの余韻で、時期外れの秋桜(コスモス)のような、淡いピンクに染まっている。  明日は休日。なのに、素敵なイベントは何もない。壁のカレンダーに何も印が付いていないのが少し寂しい。野菜ジュースを半分ほど一気に飲み干したら、むせた。  お気に入りの、グリーンのパイル地のジャージをはおって、携帯電話のアドレス帳を眺める。そこには数十人の男友達と女友達の連絡先が並んでいる。  私は戯(たわむ)れに、寝たことのある男友達を数えてみた。8人にだった。携帯電話の中に、セックスをしたことがある男が8人住んでいる。そう考えたらなんだか寒気がした。  そのまま画面を眺めていると、先週飲みにいったカズノリ君の名前があった。大学時代に同じ学科だったのに、仲良くなったのは最近だった。  話やすくて気が利く、弟みたいな男の子だ。私と同い年なんだから、もう男の子と呼ぶのはおかしいかもしれないけれど、幼さが残る目元と笑顔は「男の子」以外のなにものでもなかった。
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