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クリスマスイブの日、二年半付き合った彼女と別れた。その日、彼女はいつも僕に愛を語りかけてくれる時以上に真剣な顔で話し始めた。
「昨日さ、お母さんが倒れたらしいの。」
「命に別状はないんだけどさ、やっぱり色々大変みたいでね。」
「それでね、今年いっぱいで大学辞めて地元帰ろうと思ってさ。」
「お母さんのお店を継ごうって思ってるの。」
「だからね、ほとんど会えなくなってさ、迷惑かけちゃうから別れよ。」
母親が彼女を育てるために開いた居酒屋を彼女は継ぐと言う。父親がいなかった彼女にとって、そのお店が父親みたいなものなんだろう。彼女のしっかりとした決意を前にした言葉を前に、僕はただうなずくことしかできなかった。
その後の食事は何を食べても味がしなくて、街頭のイルミネーションも僕にはモノクロに見えた。新宿駅で彼女と別れる時、彼女が中央線の電車に乗ってドアが閉まるまでの間、僕は彼女を東京に引きとめようと必死だった。
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