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「あの、さ。」
「何?」
「今日は楽しかったよ、ありがとね」
「うん、私も。ありがと。」
「お店がんばってね。」
「うん、がんばるよ。君もがんばってね。ちゃんと就活しなきゃだめだよ。」
「あの、」
ようやく彼女を引き止める言葉を言おうとした時、ベルが鳴り、電車のドアが閉まる。ドアの向こうでは彼女が笑っている。電車は、笑顔の彼女を乗せてホームからすべる様に出て行く。
僕は知っていた。その時の彼女の笑顔は、精一杯の作り笑顔だったことを。二年半の終わりなんてそんなあっけないもんなのかな、と無理やりに納得するしかなかった。
「納得、したのかなぁ。」
そう呟きながら朝ごはんを食べる。
「食べたら、昨日言った買い物お願いね。あれがないと年越せないからね。」
「はいはい、ちゃんと行きますよー。」
年越しそばの麺を買い忘れたという母の頼みで買い物に出る。気乗りはしないが大学が休みの間、ニート顔負けの生活を送っている僕に拒否権はなかった。
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