先生

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  シゲユキは絵が上手かった。 図画工作の通信簿の評価はいつも5。 校門にもシゲユキの作品はよく貼り出された。 シゲユキが小学5年の頃、銅板に釘で凸凹をつけ作品にする図画工作の授業があった。 出来上がると壁掛けになる。 シゲユキは当時家で飼っていたエンゼルフィッシュを下書きに描いた。 下書きが出来上がり先生に見せると先生は言った。 「もっと動きがあるように描かなきゃだめよ」 「でもエンゼルフィッシュはそんなに動かないよ」 「そんな事ない筈。もっと躍動的なエンゼルフィッシュを描かなきゃ」 シゲユキは席に戻りエンゼルフィッシュの背ビレや尾ビレに動きをつけた。 もう一度、先生に見せたが 「ダメ、ダメ。もっと生きてるって感じ出さなきゃ」 「でもエンゼルフィッシュはそんな動きしないよ。家で飼ってて知ってるもん」 「そんな事ないわ。大きく動く瞬間がある筈よ。その瞬間を表現するの」 先生の許可が貰えないと銅板の工程に移れない。 他の生徒は次々と銅板を打ち出している。 とんでもない下書きの生徒まで。 シゲユキは銅板に移りたいが為、胴が折れ曲がってUターンする実際ではありえないエンゼルフィッシュを描いた。 「そうそう、これよ。凄い躍動感だわ。生きてるって感じがするもの」 やっと許可が貰えたシゲユキは銅板の工程に移った。 銅板を叩きながらシゲユキは虚しさを感じた。 大人の社会を垣間見たようだった。  
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