第二章『オチル心』

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第二章『オチル心』

僕が復讐を決意した経緯について少し語ろう。 僕が母さんの死体を発見した時、その瞬間はただ変な驚きがあっただけだ。 人間、許容できない事柄に直面した時、何が起こったのか理解できない、というのは本当の事らしい。 我に帰って携帯を取り出し、直ぐさま救急車を呼んだ。 自分でも驚くほど冷静だった。 電話の指示通り母さんに近寄って呼吸と脈拍を確かめる。 …………息して無い。 悪い冗談だ。 ナンダコレ? 人口呼吸しなければ。 電話の向こうでなにか言ってるような気がするが、そんな状況じゃ無い。 僕はどこかで教わったはずのソレを記憶から引っ張りだし、母さんの体で実践する。 ただ繰り返す。 インターホンの音の後、玄関の扉が開く音がしたが、気にしてられない。 …………その時、 「ッきゃあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」 と、耳をつんざく悲鳴があって…………僕はようやく…………現実に戻った。 何が起きてるか…………認識した。 最初にした事は、やっぱり悲鳴をあげることだった。 そして母から離れる。 それから僕はただ呆然とした。 母さんの頭から流れ出した血は、ただただその現実を僕に突き付けた。 もう助からない……何の知識もない僕がそれを確信できるほど…………。 母さんの頭には執拗な――徹底的な暴力の痕が残っていて…………。  胃が震えるような感覚がした後、僕はその場で内容物をぶちまけた。  視界がグルグルと回転して、おおよそ現実的でないその光景が更に非現実に歪みだす。 「明里さん! ぁぁぁああああ!」  由菜は絶叫と言っていい程大きな声で、母さんの名前を呼んだ。 そうすれば止血にでもなると思っているのか、自分の服が汚れるのも構わず傷付いた頭を両の手で覆い、 声が枯れるまで何度も何度も……。 ……僕はそれを、ただ見つめていた。 ……ただ見ている事しか出来なかった。
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