109人が本棚に入れています
本棚に追加
特に描写すべき事態も無く六時間目まで授業を消化し、そして放課後。
「ああ、稲雉さん」
部室へ向かおうとする途中、階段下で空戸さんに呼び止められた。待ち伏せしていたらしい。
「どうしたアリスちゃん」
「いやですよぅ、名前で呼んだりしちゃあ。誤解されちゃう」
「大丈夫。『となりの801ちゃん』は面白く読めたから」
「それでですね、本題に入りますよ」
おい。
「はい」
そう言って差し出されたのは、女子がよく授業中なんかにこっそりやり取りしている、あの、きれいに折り畳まれた手紙だった。
「これは?」
「まっちゃんが渡しておいて下さい、って。今日は用事があって部活行けないみたいなんで」
「あ、そうか。わざわざありがとう」
「それとですね、えっと」
「何?」
「ありがとうございます。まっちゃんの居場所を作ってくれて」
今更ですけど、と空戸さんは頭を下げた。
「稲雉さん達には本当に感謝してますよ」
「……そうか」
「リアクション薄っ!」
「いや、ボケ要員がいきなりシリアスになると死亡フラグだからね」
「なに言ってんですか。『人の死なない青春ミステリ』が売りの文芸部じゃないですか」
「いや、そうも言ってられないんだな、これが」
実際、一人行方不明だし。
…………。
「あら、そうなんですか。でも、その時は助けて下さいね。ピーチ姫程度のサポートならしますから」
「僕らのアリス、君が望むなら」
まったく。
最後の最後に、可愛い後輩を持ったもんだ。
最初のコメントを投稿しよう!