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僕はホテルのベッドに寝転び、天井に描かれた小さな宇宙の星を数える。
隣ではさっき知り合ったばかりの少女が、微かに感じる寝息を吐いていた。
少女のあどけない寝顔を眺めながら、その鈴の音のような声を思い出す。
「約束よ」
少女と交わした不思議な約束。
「絶対にテレビはつけないで」
僕は寝転んだまま少女の寝ている隙に、約束を破りテレビをつけた。
テレビに見覚えのある交差点が映る。
そこに歩いてくる少女。
視点の定まらない瞳で、交差点の信号が赤になったのに気づかず、ふらふらと交差点に出て行く。
映っている少女は、今僕の隣で心地よさそうに寝息をたてている少女。
テレビの画面に続いて僕が映る。
少女に向かって走って行く僕。
同時にトラックが少女に向かって突っ込んでくる。
僕はこの情景を知っていた。
この後、僕は少女を助けここにいる訳だが。
だがその映像は少し違っていた。
少女を突飛ばした僕は、そのままトラックに跳ねられ宙を舞う。
どう見ても即死だ。
悪寒が背中をかけ巡る。
その時、唐突に重みが背中に乗っかった。
寝返りをうって振り向くと、少女が僕の上で馬乗りになり、僕を見下ろしていた。
「見てしまったのね」少女の瞳から涙の結晶が落ちてくる。
泣き顔の天使。
その天使を残し、ミニ宇宙の天井は歪み消えてゆく。
変わりに青い空と、信号機の赤い警告ランプが見えてきた。
僕は交差点の真ん中で仰向けになって空を見つめている。
少女はそんな俺を見下ろしたまま涙を流し続けていた。
そしてその情景も徐々に消えて闇に沈んでいく。
薄れる意識の中で天使の泣き顔だけがはっきりと脳裏に焼き付いた。
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