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見えざる真実
ある日ウラゾは、神の子であるメイダに、猫と他の動物の確執に対する見解を伺おうと、海へ向かった。
水を飲んでいる動物達の中に目立った割合で紛れる猫達をしきりに気にしながら、砂浜で待っていると、大きな獣の皮を丸めて小脇に抱えたメイダが、林から小走りに出て来て、海に入って水を汲み始めた。
ウラゾが声をかけると、メイダは手を止め、耳を傾けた。
メイダは存外にも、進んで猫へ圧力をかける意向を示した。彼もウォルフと同じように、猫達に自重を促していたようだが、受け入れられず、困り果てていたのだという。
このまま黙って見過ごせば、多くの動物が血を絶やし、島は猫のものとなって、ゆくゆくは目も当てられない共食い合戦が始まる。神の血族として、そんな惨劇は招きたくないようだ。
「こんなものは見せたくなかったが」
メイダはやり切れない面持ちでそうつぶやき、海に潜った。
ウラゾが呆気に取られていると、やがて、髪をぐっしょり重くした青年が、密かに作って海に投げておいた諸刃の手斧を両手に携えて浜へ上がって来た。
柄は狼か猫の腿の骨、刃は石を打ち割って鋭くしたもので出来ている。接合には植物の茎と、メイダの血――白く固まっている――が使われていた。
メイダは斧を2本ともウラゾに預け、扱い方を教えると、あくまでも護身のためだけに使うように、すなわち、猫に襲われた際の他は、絶対にこれで誰かを傷つけたり脅かしたりしないように、きつく釘を刺した。
ウラゾは不服そうに、「武器があるのに、なぜ猫を退治しに行ってはいけないのか」と尋ねた。
メイダは目を見て首を振る。
「はっきり言うが、お前は猫と同じくらい浅はかでいやしい。お前が持っている槌は、猛獣の肉を削ぎ、髄に食い込む道具だが、猿が1人か2人で武器を振るっても、本気の猫にはまず勝てない。また、体の肉が破れれば、誰しも苦痛に泣き叫び、身悶えし、歯ぎしりをするだろう。その姿は、見た者の目にくっきりと焼き付いて、ほぼ、死ぬまで消えない。おれが用意した道具は、武具ではなく抑止力だと思え。そして、取り返しのつかない状況にならないうちに、宝物を探し出せ。そうすれば、皆、おのずと救われるだろう」
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