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ウラゾはその日も、仲間が運んで来た鹿や豚の腹と脚に、縄張りの土に埋め込んだ、猫の棺にふさわしい大きさの、真鍮で出来た箱から、少し粘つく透明な液体を手斧ですくい上げて、幾重にも塗りたくっていた。
死体集めから帰って来た青年が、眼孔と口の中にうじの涌いたネズミをウラゾの前に放り、愛想のない表情で話しかけた。
「なあ、ウラゾ。やっぱり何かおかしくないか。メイダに見てもらうべきだ」
猫とそっくりな顔の大猿は、手斧を振り下ろし、刃を地面に突き刺した。
「貴様には前にも言ったはずだが。あの男は信用できないと」
「けど――」
「ウラゾ!」
誰かがやや遠くからしわがれた声で怒鳴って、青年が何か言おうとするのを妨げた。
ウラゾ達がそちらを振り向くと、にび色の獣が歯切れの良い足音を立てて、林の木々を俊敏に回避しつつ、食いかかるような勢いでその場所へ向かって来た。大猿の名を呼んだ狼は、片目を半分開いたまま転がっている豚の直前でぴたりと止まった。
「ウラゾ。気でも違いおったか」
ウォルフの圧倒的な気迫に、青年もウラゾも思わずたじろいだ。
付近でくつろいでいた猿達が次々に立ち上がり、ウォルフを睨みつけた。
その中の誰かが荒っぽい声で言った。
「爺さん、よその縄張りで騒ぐんじゃねえ」
「黙れ」ウラゾがうつむいたまま同胞を叱りつけた。「ウォルフは我々の味方だ」
一帯が静まり返ったのを確認すると、狼はウラゾの目を視線で射抜き、肩をいからせてまくし立てた。
「何も言わんということは、わしの睨んだ通りじゃな。そうじゃな、ウラゾよ。……ふざけるな、ふざけるな。自分が何をしたかわかっておるのか。ここしばらく、妙な臭いのする死体が肉食いの者共を殺めておったが、こういうことだったとは。あのたわけ共を陥れようとでもしたんじゃろうが、この阿呆めが、お前さんのせいで、他の者が絶滅に追いやられたではないか。その奇っ怪な水はメイダの言っていた『宝物』じゃろう。なぜ黙っておった。見つけておったなら、なぜ。なぜじゃと聞いておろう、ウラゾよ!」
「メイダは嘘つきなのだ、ウォルフ!」ウラゾが震えながら叫んだ。「聴け、御老体。貴様は鼻も利けば勘も鋭い。しかし、つめが甘いのだ。良いか、メイダは我々を救う気などない――」
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