見えざる真実

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 ウラゾは、仲間達が屈託した面持ちで見守る中、半年間、苦汁を舐める思いで隠していた決意と、悲惨な胸中を語った。    メイダが動物達に宝物を探すよう指示した日からまもなく、猿の縄張り内で、誰も見たことのない不思議な箱が埋められているのが発見された。  ウラゾらがこれを宝物と見て舞い上がったのも束の間、蓋を開けた若い娘が、好奇心から、中に入っていた冷たい液をほんの一滴口に入れ、少しの後にひどくもがき苦しみ、息絶えたのだ。  箱に収められ、隠されていたのは、平和や幸福をもたらす宝物などではなく、動物の命を冷酷に奪ってしまう、『毒』だったのである。  ウラゾを始めとする、死んだ娘と共に暮らしていた者達は、深い闇に心を侵され、メイダの真意を強く疑い、どうするべきか、何日も考えた。  そして、神の子を試そうと、最も差し迫った問題の一つである、猫の凶暴化を突きつけたのだ。メイダはその時も決断を保留し、『宝物』に拘泥する態度を見せた。  これによってウラゾは、メイダは宝物の正体を知っていて、猫に抗えない弱い動物達を見殺しにし、毒を悪用して島の食料を独り占めするつもりに違いないと確信したのである。     猿達の頭は言う。 「だから、私は我欲に負けた神様の御子に代わって、死肉に毒を盛り、島の悪鬼たる猫を懲らしめ、もろもろの住民達を守ると決めたのだ」 「悪党め!」ウォルフが噛みつくように叫んだ。ウラゾはびくりと弾み、思わず両手で顔をかばった。「わしらとて危なかったのじゃ。狼でも鼻の弱い者があったら……、いや、現に熊なぞは全てお前さんが殺したのかもしれんぞ」  彼は口を閉ざした大猿に1歩詰め寄り、語を次いだ。 「よく聴け、ウラゾよ。ノイルはそこいらの死体が毒に染まっていることをずいぶん前に悟り、ゆえに生きた動物を食らうしかなくなったのじゃ。お前さんの企みは何もかも失敗、むしろ、そのせいで、かえって多くの命が猫の犠牲になった!」    猿達は皆、うなだれて、何も言おうとしなかった。ウラゾだけが、時々ウォルフの鋭い眼差しに目をやり、弁明でもしたそうに口をぱくぱくさせ、息を吸ったり、力なく吐き出したりを繰り返していた。 「おれは反対したんだけど――」  そう言いながら、族長の向かいに立っていた青年が、凄まじい剣幕で唸りを響かせている狼の前に、意を決して立ち入った。
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