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刹那、ウォルフが何か異常を察知したらしく、両耳をぴんと立てて、明後日の方角を見やった。
猿の若者らも何人かそれに気づき、不審に思って同じ方向へ目を凝らした。
すると、まずウォルフが、次に青年が、それから他の猿達が、身を凍りつかせ、自らの正気を疑った。
大木が倒れかかろうとも動じないような、重そうな胴体を持つ、黄色く分厚い毛皮を全身に貼った猛獣の群れが、無闇に太い割りに贅肉の少ない脚で、こちらへ突き進んでいたのだ。
「猫」
誰かがかすれた声でつぶやいた。
ウォルフが、悲鳴とも威嚇ともつかない咆哮を上げた。
ウラゾが猫の接近を知ったのはその時だった。
12人の黄色い獣が、瞬く間にウォルフと猿達の眼前に立ち並んだ。これはウラゾの縄張りの住人の2割に相当する数である。
「よう、でくの坊の猿ども」猫の青年が、切れ長の大きな目で、立ちすくむ猿の面々を舐めるように見回した。「散々煮え湯を飲ませてくれたな」
「何のことだ」
ウラゾが体の震えを必死で抑えながら、下目遣いに猫を睨みつけ、太い声で言った。
体の小さい猫の少女が、
「とぼけんじゃねえよ、ぶち殺すぞ」
と素早く躍り出たが、大人の猫達がそれを制した。
黄色い猛獣達は、怨恨に満ち満ちた顔色で、しかし努めて冷静に、自分達の思いと、ここへ来た経緯を打ち明けた。
半年前から、健康な猫が外傷もなく突然死ぬ事件が相次ぎ、生きている者は皆、いつ自分がそうなるかと毎日怯えていた。が、ある時ノイルが毒の蔓延に感づいたことで、彼女の近隣に住む者達は狩人と化し、危機を免れた。
初めは誰もがメイダが事件に関わっていると考えていたが、子供達を使って毎日見張ったところ、彼は潔白だとわかった。
次に、同じ肉食いであるにも関わらず、一向に被害を受けた様子を表さない狼を怪しんだが、狼が危険な臭いのするものを食べないことを知っている者がいたため、報復に打って出ることをためらった。
首謀者は誰だ、恋人や家族が悶え死ぬ様を見ていた猫達は、この日まで常にそのことばかり考えて生きていた。
今や、復讐をあきらめるよう促して回る者も現れていたが、ほんの数日前、彼らの元に、小さな知らせが届いたことで、調べは再開された。
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