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この島はかつて、豊かに実の生る木々にほぼ全域を覆い尽くされていて、陸には様々な地を這う獣と、わずかな鳥、そしてたくさんの猿が棲んでいた。周辺の海は肉づきの良い小魚で賑わっていた。
彼らは皆共通の言葉で話し、共に遊び、果実や草を食べ、気ままに暮らしていた。
肉を食らう動物が少なかったのも、住民同士の信頼関係が保たれる要因の一つだった。猫や狼などは、専ら死体を食糧としていたのだ。
気候は温暖で、海の水は彼らにとって飲み水だった。
この島は動物達の天国であった。
ところが、ある時から島の上には雨があまり降らなくなった。
木の実は味を失い、数も減り、やがて草木そのものが枯れ始めた。
経験したことのない事態に、動物達は恐怖した。
それでありながら、食糧危機の明確な打開策が一向に見つからず、ついには飢え死にする者まで現れた。その仲間や家族は無論為す術なく、同胞の死を黙って見届けるしかなかった。
その一方で、急激に景気づく組織もあった。死体を糧とする者達である。
特に猫などは愚かなもので、死肉を好きなだけ我が物にできる時代が一時的なものであるとは知らず、飢えて死んだ島民の血を貪っては、その体力を子作りに費やしていたのだ。
鳥や猿、狼までが陰で猫達の暴挙をあげつらったが、何といっても大人の猫は熊よりも大きく、骨を砕くほど強い顎を持っていたので、誰も強気に咎めることができなかった。
肉を食らって生きる者は、元来少ない食糧で体を維持する能力を持っていたので、木の実によってしか生きられない動物の遺骸が増えるほど、かえって生活が楽になるのである。
特に、怠惰で慎みがなく、思慮の浅い猫達は、持ち前の繁殖力と成長の速さも手伝って、1年の間に5倍にまで増えており、いつかは元々島民の半数を占めていた猿に追いつくといわれるようになった。
猫という動物は、その気になれば自分よりも大きな相手を単身で食い殺すほどの猛獣であった。
彼らによる支配を恐れた狼の長老ウォルフは、知恵を求めて、この島において長年大きな勢力を保ってきた猿の縄張りへ赴いた。
夜明け前、猿の総長ウラゾは狼の足音で目を覚まし、昔より鋭くなった眼つきでウォルフを睨みつけた。
ウラゾは外見が非常にいかめしいことで有名だった。鹿や狼の倍はあろうかという巨体は、つやのない黒い毛に覆われており、顔は猫によく似ていた。
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