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動物の島
栗毛色の長い髪を革の紐で結わえた男が、こけの生えた頭骨と骨盤を両脇に抱え、波の柔らかな大海の上を、黙々と歩いていた。
彫りの深い目はもの悲しげに前を見据え、芝草よろしく揃い伸びたひげは、男の口と顎をほとんど隠していた。
鰐の皮に真鍮のうろこを貼った、袖のない鎧を肌に着ており、腰帯にあばら骨を2本挿し、足にはキルクの履き物を括りつけている。
右手で大事そうに保持している頭骨は、下顎の付いた口で不気味に微笑みながら、男を見上げていた。
水平線まで満遍なく散りばめられた、太陽の白い光が、海面が形を変える度に音もなくきらめく。
やがて、直径およそ1万2千キュビトほどの、閑散とした孤島が男の眼前に広がった。
彼はある所まで近づくと、急に太い眉を不審げにひそめ、歩みを速めた。
島の頂は海抜600キュビト程度、密林らしい景色は見えず、岸に弓形の砂浜が敷かれている他は、大小様々な木や草が生い茂るばかりで、鳥以外の生き物の影はどこにもなかった。
男が走り始めたので、上体に纏った無数の真鍮板が上下に揺れ、互いに打ち合い、かちゃかちゃ音を立てた。
海岸の状態が尋常でないことに気がついたのは、かなり近くまで来てからであった。
猿や四つ足の動物の腐敗した骸が、砂埃にまみれて、浜を埋め尽くしていたのだ。
男はそこへ上陸すると、抱えていた骨を無造作に落とし、慌ただしく内陸を見渡して、声に手を添えて叫んだ。
「この有様は何だ」
しばらく待ってみても、返事は聞こえない。
高い鼻を掻き、野人よろしく不潔に伸びた髪を解いた。
「鳥よ、私の声が聞こえるか」
もう一度大声で呼びかけ、前後左右を見回しながら、激臭の立ち込める海岸を駆け出した。
すると、どこからか赤茶色をした鳩が飛んで来て、男に尋ねた。
「あなたは神様ですか」
男は立ち止まって彼を見上げた。
「いや、違う。誤解するのも無理はないが、私は神様ではない」男が唾を飛ばしながら、危機感の窺える口調で言う。「メイダという男を知らないか。彼に全てを任せていたのだ。いったいここで何があった」
「長老に聞くといいでしょう」鳩は岡のほうへくちばしをしゃくった。「あなたを神様だと言っていましたが、本当に人違いでしょうか。とにかく、この島について一番詳しいのは長老です」
男は鳩の案内で、林へ入って行った。
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