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記憶が途切れる前でハッキリと理解出来るのは、あの変な本を開く前までだ。
五月はゆっくりと自らを落ち着けるように、敢えて今日の朝、いつものように自分が起きた所から思い出してみる事にした。
落ち着けー…
まず、朝、起きる。
時間は少し寝坊してしまったがまだ朝食を取って少し天気予報を見てから家を出ても充分間に合う時間だった。
学校へ行って、久しぶりに源氏物語でも読み返すか、とか思って図書館へ行ったが途中で電線に止まっている雀の模様に思いを馳せて妄想していたら時間がなくなり結局図書館には行かなかったっけ。
そして、授業も普通にいつも通り先生から目を反らされつつ終わり
読むものが無くなっていたからいつもの本屋に寄ったんだ。
……ーあの本…。
不思議に真っ白な本。
目を灼いた光。
湾曲した声。
どれも科学や化学では有り得ないものだ。
引っ張られて落ちたし。
改めて考えてみて、その現象の有り得なさに五月はもう乾いた笑いしか出ない。
だけど……
自分の体験の有り得なさから冷たい石畳の上に投げ出していた腕を力無く持ち上げ、そっといつもそこに置いてある分厚い渦巻きの模様をした『ぐるぐる眼鏡』を、その存在を確かめるようになぞるように触る。
すると、普段の慣れ親しんだ感触に落ち着いて来たのか、次第に乱れていた心が静まって行くのが分かった。
……うん…。……理解は出来ないけど、まぁいいや…。
ってことは…
目線を上げると先ほどの人物が、五月が出て来たらしい複雑な模様の中から何かをどんどんと出しているのが目に入る。
「やっぱり、魔法なん…だ……?」
五月がじっと見ている中、まだその人は魔法を続け、ぬいぐるみやら写真立てやら人形やら空き缶やらをずっと出し続けている。
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