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真っ黒なな長衣を着て、長い袖の下でシャラリと彼が腕を動かすたびに澄んだ音が響くので、沢山のブレスレットを着けているねだろう。
手には、真ん中に真っ赤に輝く大粒の宝石らしきものを付けたひしゃげた木の大ぶりな杖を持っていた。
五月の反論を無視し、何故か彼はその場に崩れ落ちる。
「いや、だが、ええ!!!?本当にこれなのかっ!!?神秘さの欠片も無いぞ!!?」
頭を抱え込んだ魔法使いは五月から敢えて視線を外しながら嘆きの声を上げた。
……えっと……。
なので五月は考える。
彼が自分を呼び出した。
けれど、何をするでもなく彼女を見て何かショックを受けたような叫び声を上げ続けている。
先ほどまでの小物などはきっと、自分じゃ無い『何か』を必死で呼び出そうとした努力の後なのだろうことが容易に想像出来た。
つまり、彼が呼び出そうとしたのは自分では無いのだろう。
結論で行くと、人違い、ということになるのだが…。
まぁ、当たり前か……。こんなんに呼び出される様なことした覚えも思い当たる事も無いしな…。
ならば、話は簡単だ。
五月がするべきことは、彼に現実のトドメを刺し、自分を戻してもらうことだけだ。
…じゃあさっさと帰ろうかな。
良い夢見してもらったし。
今日は、物理のレポート書かなきゃいけないし。
けれど、その前にせっかくの異世界なのだからこのまま帰るのでは無く、せめて記念に外の景色だけでも見ておこう、と思い、五月はぐるりと部屋を見回した。
部屋は結構広かったが、床は石畳、周りの壁はむき出しの岩肌と云った、まるで映画に出て来る牢屋のような部屋だ。
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