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五月はふと足を止め、今さっき買ったばかりの本をビニールから出し眺めて見た。
何故か、吸い寄せられるように思わずこの本を買っていた。
考えることも特に無かったのに、この本を持ってレジへと行った自分が今になって不思議に思えて仕方がなかったのだ。
そして、何故だろう。その本には、なんとなく違和感があるのだ。
「変なの。」
そこまで考え、五月はボソリと呟き、また歩き始める。
とにかく家に帰ってからにしよう。
今考えても仕方の無い事だ。
ならば、家へ帰ってゆっくりと読み始めてみよう とそう思ったのだ。
駅を横切り、滑り台とブランコと鉄棒しか無いような小さな公園を通り過ぎ、いつもの進み慣れた通学路にしている道を時々歩き、また時々スキップに戻しと繰り返しながら、五月は家へと向かった。
彼女の家は8年前に彼女の両親が死んだ年から何も変わっていない。
五月の家は一軒家で、そんなに広く無い敷地にこぢんまりとした家が詰め込まれる様に建ってていた。
庭には、以前飼っていた犬の犬小屋が沢山の草花や良く手入れの行き届いた花壇に囲まれてポツンと置いてある。
五月は玄関をくぐり、沢山の小物が置いてある靴箱の上の写真立てへとそっと顔を向けた。
そこには、一組の男女と小さく女の子が肩を寄せ合い幸せそうに笑っている写真が入っている。
彼女はその写真に ただいま と、小さく呟き、さっさと靴を脱いで階段を上がって行った。
2階には2つ部屋がある。
階段を登りきったすぐ右の部屋が五月の部屋だ。
奥には、両親の部屋が8年前…2人が出て行ったその時のままに変わらずあったが、五月はその部屋に鍵を掛け、以来一度も入ろうとしなかった。
五月は、自室に入り、さっさと制服を脱いで、ただ動き易さと快適性のみを追求した私服へと着替え、早速先ほど買ったばかりの本をビニールから出し、改めて眺めて見た。
サイズは一般的なハードカバーの本とあまり変わらない。
上表紙、裏表紙、背表紙と順に眺めて行き、五月はふと手を止めた。
「タイトルが無い。」
そう、その本には、どこを眺めてもタイトルが無く、ただ同じ色の表紙が裏と表に張られ、本のサイズよりも小さい枠線が金のラインで描かれているだけなのだった。
作者の名前など当然無く、ただ一面の透明感のある不思議な 白。
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