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「もしかして……ここ?」
彼女はあまりに予想外なことに思考がついてきてくれずに、唖然と立ち尽くす。
先程まで通ってきた豪奢な住宅街とは打って変わり、目の前には今にも朽ち果てそうなボロ屋敷。
昼間にも関わらず鬱蒼と繁った木々で太陽の光は遮られ、夜中のような暗さだ。
しかもいい具合にカラスが鳴いている。
気味が悪いことこの上ない。
「どうしよう……。地図が間違っているわけないし。」
彼女は本気で引き返そうかと迷ったが、拳を握り気合いを入れると、サビの目立つ門を押した。
ギギギ…と嫌な音を奏でる門をくぐり、屋敷の玄関へと向かう。
広大な庭には雑草が所狭しと生え、全く手入れをされていないようだ。
彼女は辛うじて道に見える道を歩き、ようやく玄関につく。
今にも崩れ落ちそうな屋敷に似合わぬ重厚な扉を遠慮がちにノックし、中にいると思われる住人の様子を伺う。
こんな小さな音では気がつかないかなと思いつつも、あまりに屋敷が荒廃しているため強くは出れなかった。
彼女はずれるボストンバックの紐を直しながら、辺りの様子を伺うように視線を向ける。
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