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「お待ちしておりました。どうぞ、奥へ……」
無表情な上に抑揚のない澄んだ声に驚きつつも、柚子は軽く頷き扉の奥へと足を踏み出す。
「うわぁ……」
半ば予想通りの内部に、柚子は納得していた。
辺りは蜘蛛の巣と埃だらけ。
装飾品などなく、広いだけであっけらかんとしているだけだ。
目を奪われたような柚子に構わず、案内係りの彼女はすたすたと奥へと歩いていき、柚子は慌てたように小走りでついていく。
奥へと続く長い廊下も玄関付近の雰囲気と変わらず、手付かずの荒れ放題となっている。
よく気にならないものだ。
「こちらです。」
つらつらと考えているとようやく彼女の足が止まり、そこには年期の入った重そうな扉が待っていた。
柚子が彼女に視線を向けると、彼女はノックもなしにゆっくりと扉を開く。
「うそ………!!?」
扉の奥を目にした途端、柚子は驚きのあまり手にしているボストンバックを取り落としそうになった。
応接室……というのだろうか。
そこは今まで通ってきた廊下やエントランスとは違い、柔らかな絨毯が敷かれ美しい調度品と温もりある明るい光が溢れていた。
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