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「……アゲハ」
片手で封筒をいじっていると、何やら黒いファイルを持った白百合が戻ってきた。
無表情で抑揚のない声の白百合から感情を読み取るにはかなり熟練の技がいるが、今白百合が言いたいことがアゲハには嫌というほどわかっている。
「白百合~……、少し頑張りすぎじゃないか……」
アゲハは椅子から落ちない程度にずり下がり、嫌々といった風にため息をつく。
その態度は先程までの大人っぽさはなく、年相応の幼さを感じさせる。
だがそんなアゲハに白百合が容赦をするわけなく、黒いファイルをすっとアゲハの前に出した。
「仕事です……」
無表情の白百合に上から言われ、アゲハは再び重いため息をついた。
そして面倒くさそうにファイルを開くと、ゆっくりと内容を確かめる。
「へぇ……。今度は迷い猫を探すのでもなく、迷いペンギンを探すわけでもないわけだ……」
「……このファイルの時点で、そのような仕事なわけありません。」
アゲハは冗談だと淡く笑み、先程とはうって変わって楽しそうだ。
室内に響くのはアゲハがファイルをめくる音のみ。
アゲハも白百合も話すわけでもなく、静かな時間が過ぎていく。
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