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「成る程、ね……。」
アゲハは全てを読み終わるとファイルを閉じ、白百合へと戻す。
白百合はそれを受け取ると、黙ったままアゲハに視線をよこした。
だが視線を向けられた当の本人はというと、両手を組んで思案するようにじっと壁にかかった絵を見ている。
その瞳からは何の感情も伺うことができず、また静かな時間が辺りを満たしはじめた。
「……白百合はどうしたい……?」
アゲハはついっと絵から視線を外し、まだ湯気を上げているお茶へと手を伸ばす。
先程よりは大分冷えてしまってはいるが、飲めないことはない。
香を楽しむようにカップを揺らし、白百合の答えを待つ。
すると白百合からは、予想通りの答えが返ってきた。
「私が口を挟むことではありません。」
「そう言うと思ったけれどね……」
白百合の答えに頷きながら、アゲハはお茶に口をつける。
お茶の風味が口の中に広がり、アゲハは年寄り臭いなと思いながらもほっと息をつく。
そして今だに直立不動で待つ白百合に視線を向け、柔和な笑みを零した。
「お前が持ってきた仕事だ。はずれはないだろうさ。」
「では……」
白百合の声に反応はせず、アゲハは再びお茶へと視線を戻し、堪能するようにゆっくり飲みほした。
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