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file.1 三原柚子
閑静な住宅街には豪華な屋敷が立ち並び、塀の近くを歩くのでさえ気後れしてしまいそうだ。
しかも行けども行けども豪奢な屋敷が両側に続き、彼女はいたたまれない気持ちを抱きながら道の真ん中を歩いていた。
ファーつきのコートにシンプルなスカート。
庶民的なその出で立ちではこの住宅街に合わない感じがするが、彼女全く気にするそぶりを見せない。
そして極め尽けに大きなボストンバッグを右肩にかけ、左手には小さなメモが握られている。
「確か……この辺りのはずなんだけど……」
どうやらそのメモは地図らしく、彼女は何度も見直しながら歩を進めて行く。
しかし地図に悪戦苦闘しながらずんずん歩いていくと、それと比例するように豪華な住宅街から次第に外れていく。
「なんかお屋敷ワールドから離れてきたけど、これであってるのかな……。」
女は地図を読むのが苦手なのよ、と悪態をつきながらも、やはり不安になってしまう。
別に方向音痴というわけではないのでそこまで心配はしていないが、それでもどんどん暗い細道へと入っていけば回れ右をしたくなるのが心情だ。
そうこうしているうちに、気がつけば目の前に大きな屋敷が見えてきた。
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