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人の居ない筈のシンと静まりかえる路地に、誰かの声が何処から途もなく聞こえてきた。
帽子を被って居た男は、待ち人がやっと来たのか、時計を見る仕草や、眼鏡を上下する以外の動きを、ゆっくりと見せた。
男は、声の聞こえた方向が分かるのか、左隣に在った街灯を背に軽く向き直って、暗がりに在る向かい側の金物屋を兼業している工場を見た。
少し冷えた左手に持った懐中時計をポケットに締まった後、被っていた帽子を左手で抑え、「今晩は」という感じで軽く会釈した。
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