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雲一つないこの空に蒼く煌めく月が大地にその光りを浴びせる。
その光りは暗黒の森を少しばかり明るくする。
その中を急ぎ足で駆け抜けていく影が二つ。
質素な着物に身を包みながらも、まず第一にその神々しいまでの美貌に目を奪われてしまうのは仕方のない事。
さらには極一部の貴族や華族が放つ雰囲気をその身に秘めている気がする。
「天惷……。もう良いのです。……私を、……私を置いていって下さい。私一人で戻れば貴方まで危害は行かないはずです」
細く弱々しい声がこだまする。
次第に一つの影が駆けるのを止めた。
先程まで重なり合うように駆け抜けていた影が次第に離れていく。
そしてもう一つの影が離れていった影の下に舞い戻った。
「……そんな事出来るわけありません。姫、貴女がいなければならないのです」
軽装用の鎧を身に纏った若い青年が必死に哀願する。
その声は男が放つような声ではなく、透き通る声だった。
しかし、姫と呼ばれた美少女が顔を横に振る。
何も戻りたいのではない。
このままだと、この青年が危ういのだ。
「姫! ……すいません。無理矢理にでもお連れ致します。
申し訳ありません」
青年のその蒼く長い髪をフワッと宙を舞うと、姫と呼ばれた美少女に近づき肩に乗せた。
「きゃっ!」
「手荒な真似をして申し訳ありません…。ですが……、今は耐えて下さい」
蒼い髪の青年が頭を伏せながら申し訳無さそうに話す。
「……ありがとう。………天惷。」
声自体はか弱いが、透き通ったその声には確かな意志を感じた。
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