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雲が突如として現れる。
それはまるで何かを邪魔するかのように、輝いていた月を隠し、また暗黒のごとき暗さに森は包まれた。
その森の中に巨木を背に掛け、休んでいる青年と少女がいた。
青年の方は気配を辿り、いつでも襲撃に備えられるように浅い眠りに入っていた。
対して、少女の方は張りつめていた物が切れたように眠っていた。よほどの事があったのだろう。
この若い青年の名は
天惷 (テンシュン)
蒼く長い髪がとても印象的な青年で、姫の護衛の1人で姫の事をもっとも理解している。
少女の名は
神麗 (シンレイ)
ある滅びた国の姫君。
その容姿端麗な美貌故に敵国に送られる途中だった。
不意に天惷は目を開け、今は隠れた月を捜す。
――逃げきれるだろうか? ……いや、逃げきってみせる。
事の始まりは天惷が神麗を奪い返した事から始まる。
『私の事は忘れて、幸せに生きて下さい。』
送られる日の直前に神麗が天惷に言った言葉。
神麗は泣いていた。
しかし、それを隠すように気丈に微笑んでいた。
そんな神麗が可哀想だった。
助けたかった。
救いたかった。
一緒にいたかった。
全てはただ遠くから見つめ、好きだった姫を見てられなかった。
その一心で天惷は神麗を取り返した。
神麗は泣いた。
『何で、……何で私なんかのために……!』
神麗は泣いていた。
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