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不意に辺りの木々や茂みが風がないのに揺れ始める。
それに反応しない天惷ではない。
細心の注意を払いながら、敵の初手を考えながら、天惷は腰に携えている刀をスラリと抜いた。
天惷の蒼く透き通るような長髪と同じような長い刀身に淡く薄い蒼色。
見事なまでの曲線、柄や鞘に至るまでの見事な装飾……。
「……何者だ。……『我』の国の者か……?」
もはや、敵との位置は一太刀の間合い。微かに残る気配が、逆に自分を敵だとわからせてしまう。
我の国とは天惷や神麗が住んでいた『舞の国』を滅ぼした国。
力を持って近隣の国を滅ぼし、今は強大な力を誇っていた。
「……舞姫を返して頂こうか?」
敵の自信の現れか。もはや気配を隠す必要はないと言わんばかりに気配を出すと天惷の聞きたくはない言葉が返ってきた。
『舞姫』
ただ舞うだけの姫。
一国の姫だった者に対してはただの蔑み、屈辱でしかない。
天惷はグッと刀に力を込め、唇を噛み締める。
血が滲み出るほどに……。
神麗にはもちろん、天惷にとってもこの上ない屈辱だろう。
自分の守るべき姫が……
最愛の女性が……
『舞姫』などと…
気付いたときには天惷は地を駆け殺意を放ち、声のした方へ斬り掛かっていた。
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