†第一楽章†

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街は雨。降り止まないまま朝を迎えた。俺は煙草をふかしながら殺風景な部屋に座り眠らずにずっと朝を待っていた。空は灰色に混じった薄紫に染まり、天は終わりを告げるように激しく降る雨を地上に撒いた。天からの恵みの水で一体何が育つのかも解らないのに、天は雨を降らし続けた。煙草の火を消し立ち上がり、コートを着て傘持ち部屋を出る。右側の階段を降りエレベーターに乗り一階へ。傘をさし外へ出て街へ向かう。見慣れた街の見慣れた光景と、小さな公園。公園には、こんな雨の中、女の子が1人で遊んでいた。五才くらいだろうか…。赤いレインコートを着て水たまりを無邪気に踏んで回っていた。それを横目で見ながら歩き続け花屋の前に来ると店員から予約してあった花を受け取った。白いカスミソウとアスターの紫の花びらは目を止める鮮やかさ。アメジストのよく似合う…。その足で今度は海へ向かった。家から海へはさほど離れてはいなかった。晴れた日には部屋の窓から眺められる程の距離。ゆっくりと歩きながら落ちて来る雨に返りながら追った。
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