†第四楽章†

2/2
前へ
/12ページ
次へ
正直に言うと、かかってくるとは思っていた。だか違った。彼女本人では無く、毎日電話をかけていたらしいが彼女の姉だと名乗っていた。そして、静かに受話器を置いた。入院していた彼女は病室で姿を消し、それに気付いたのは朝だったらしい。雨の降る海で、彼女は自殺したのだと。理由はおそらく、ストレスの為拒食症になり、病室では別れに酷く嘆いていたと…それから彼女が妊娠していた事も知った。 遺体はあがらなかったらしい。彼女の靴だけが海岸に残っていたと。俺が昔買ってやった、靴。何も考えらなかった。 アスターを見た。 ーこれは遺言なのか…? 彼女の信じる恋にさよならを告げた俺に追憶と心残りと言う罪を与えたのか…? あまりにも重い罪だった。 眠れない夜は続き、仕事も手につかなかった。 これが代償なのか? それから何日も過ぎ…月日を追うごとにやせ衰え、日を見る事もなかった。 やがてまた日は暮れ、あの日、彼女が見た朝の海へ入った。 手には枯れたアスターの花を握り締めて。 遠くの海を見つめ、この海その物が彼女の涙の様に見えた。 そして、彼女を幻影を見るように、ゆっくりとその身を沈めた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加