107人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
――静寂
しんしんと静寂は降り積もる。
ただひたすらに、樹木の年輪のように、幾度にも幾度にも折り重なっていく。
ただ、白いだけの世界。
それは、そんな真冬の出来事だった。
外から聞こえる強い風、空き缶の転がる音。
そして、元々は個室の出入口であっただろう場所にかかっている表札が、カタカタと揺れ動く。
7年前。AN計画の影響は各地に広がっていた。
この病院も例外ではなかった。その病院は、すでに病院として機能していなかった。
所々に飛び散った血の痕。
男の右手の中指をつたって、ドロッとした赤い液が、ポタポタと床に垂れる。
すぐ傍には、首や心臓をめった刺しにされた三人の男たち。
少し離れたところには、上半身しかない女性の体が転がっていた。
倒れている人は皆朱く染まった白衣を纏っていて、すべての遺体は、ピクリとも動かない。
病院内の、無惨な光景。
それら死体を呆然と見つめる少年。
泣くこともなく、ただ見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!