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永遠とも一瞬ともつかなかった。ただ深い、深い闇があった。
しかし、今、そこに光が差し込んだ。
「――――」
言葉にならない呻きと共に、フォルテ・パッキンガムは自我を意識した。
しかし、まだ瞼は開かない。
こういった状態では目が覚めたと悟られる前に状況確認をする、と叩き込まれていたがそれとは無関係だ。瞼が眼球に張り付く程に乾いていたのだ。
苦心して瞼を押し上げる。意味もなく焦点の定まりきらない視線を彷徨わせると、白い天井と遠くの壁。どうやら彼のいる部屋は相当広いらしかい。
次に視点を右に転じると、サイドテーブルの水差しが目に入った。
途端に喉が渇いることを自覚する。喉仏が無意識の内に水を求めて上下するが、口腔内は乾燥しきっていた。
当然だろう。目ですら乾燥していたのだ。まして呼吸により空気の通る口が乾くのは言うまでもない。
手が水差しに伸びる。が、それを持ち上げた所で愕然とした。
水面が大きく波打っていたのだ。それは自らの身体の衰えを証明していた。
何とかして震える腕で水差しを直接口に傾けた。加減が利かず、大量の水を胸元に零してしまったが、気にしている余裕もなかった。
水差しが空になるまで飲んでようやく一息ついた。
そこで、毒薬や自白剤が混入していた可能性について思い当たった。
どこにそんな水分が残っていたのか、冷や汗が背筋を伝う。
が、よくよく考えてみれば、意識を失って身動きの取れない彼を殺害するのは容易いはずであるし、あれ程の白魔術士ならば自白剤などより直接心を覗いた方がよっぽど早いだろう。
普段通りの彼ならば、水差しを手に取るまでの一瞬でそれくらいの思考はできるはずだったのだが、やはり頭の方も衰えを感じざるをえなかった。
と、そこまで考えた所でようやく彼の意識は覚醒した。
(ダミアン・ルーウ……!)
あの強力な精神士。
白魔術士の事まで思考に出しておいて何故、思い出さなかったのだろう。
ともかく、状況確認をする事にした。本来ならば瞼を開ける前後にしなくてはならないのだが。
(どれ程に衰えていれば気が済むのだろうな)
自嘲の苦笑は心中だけに押し止どめ、彼は辺りを見回した。
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