No.5

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コンビニで牛乳とパンを買い、家に戻る。 空には日が昇りはじめていた。 普通の人は手を太陽にかざせば、その透ける手に生命の暖かさを感じるのだろう。 俺の手には俺が断ち切ってきた人生がこびりついている。 真っ赤な、真っ赤な命の塊だ。 一瞬でも生命の暖かさに触れようとした自分に恥じ、いつもの道を行く。 「あら、いらっしゃい。」 「…………邪魔するよ。」 全くかわりもんのバアさんだ。素性の知れない男を不用心に家にあげるんだから。 「おい、犬!」 紙袋から牛乳とパンを取り出していると、左足に感じる微かな重み。 ほとんどないような尻尾をふりながら、必死に俺の足にしがみつく。 小さくパンをちぎり、牛乳に浸したものを犬の前に置く。 「名前が犬じゃ可愛そうじゃない?あなた何かつけてあげれば?」 「バアさん………つけてやってくれ。」 椿が咲き誇る庭で、命のない男が犬について語るなんかおかしな話だ。 「まだ当分この子の名前は犬ね。」 ため息をつきながらバアさんが言う。 「じゃあ行くから。こいつのこと………頼む。」 「はい、またいつでもいらっしゃい。」 買ってきたパンと牛乳を渡し、犬の頭に手を置いて別れを告げる。 「またな。」 なんの恐れもなく真っすぐな目で俺を見上げる。 何もかも見透かされそうな気がして、直ぐにバアさんの家を後にした。
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