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手を伸ばしてみたところで、誰が気付いてくれるわけでもない。
しかし俺たちは本能的に誰かに助けを求める。
誰かに助けてもらわなければ俺は生きていけない自信がある。
助けてくれた相手が誰であろうと………。
あれは雨の日だった。
いつものように仕事を終え、いつもの道を帰る。
雨はいい。
普通の人間にも、こんな俺にも、平等に降る。
だれもが同じ冷たさを感じる。
容赦なく俺を打ち、命が洗われていくようだ。
元からないのだが……。
路地を入ると、なぜか赤い絨毯がひかれている。
目の前に尻尾の辺りから血を流している、クタクタに疲れた小さな命がその生涯を終えようとしていた。
雨は命そのものを流そうとしていた。
傘をさしてやったところでそれを止めることができるはずもないのだけれど、そっと傘を置いてその場を立ち去ろうとしたのだが、何かが俺の足を止めた。
ほとんど意識もないだろうに、そいつは鼻をならし、ほとんどない尻尾を懸命に振ろうとしている。
揺らめく炎が消える瞬間に見せる恐ろしいまでの鮮やかさ。
俺がこの犬に感じたものはまさにそれだった………。
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