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病院帰りの車内は、外界からの音も遮られたかのように静まり返っていた
静かな声でその沈黙を破ったのは、アキラの方であった
「……どうして、言ってくれなかったんだい?」
「…………」
「責めるつもりはないよ。でも、一言は何か言って欲しかった」
「…………すみませんでした」
信号で車が止まると、アキラは優しくマオの頭を撫でた
申し訳なさそうな表情をしていたマオも、擽ったそうに口元を緩めた
二人が家に戻ると、玄関の前に一人の男が立っていた
「よっ!アキラ」
「!……セイジか?」
二人は顔なじみらしく、マオは遠巻きにぼんやりと二人を見ていた
「お前、何で来たんだ?」
「冷たいなー、折角親友が来てやったってゆーのによー」
「誰が親友だ、誰が」
そんなやり取りをしていると、ふとセイジと呼ばれた男と目が合った
「ところで、その子誰?まさかお前の隠し子とか?」
「そんな訳ないだろ、訳あって預かっているんだ」
「ふぅん。オレ、セイジね、宜しく。君は……痛っ!」
セイジは握手をしようと手を伸ばしたが、アキラに払われそれは叶わなかった
「こんな奴なんかと関わらなくていいよ」
「こんな奴とはなんだ、こんな奴とは!」
また二人は軽い言い合いを始めたが、マオはそれどころではなかった
―……薄らいでも、やっぱり…―
アキラは胸の辺りを握るマオに気付くと、心配そうに眉尻を下げて顔を覗き込んだ
「大丈夫かい?」
「…はい、でもちょっと…」
それを聞くと優しく頭を撫で、家の中で休むように促した
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