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「そんな事ないわよぉ。
特に研修医の時なんて、毎日悩んでたもの。
自分は医者に向いてないんじゃないのかなぁ、なんてクヨクヨ悩んでいたわ。
指導医の先生の事がすっごく怖くて、何でこんな厳しいのかな?私、嫌われてるのかな?って泣きたい位だったし、毎日びくびくしてた。
今から思えば、目の前のことにいっぱいいっぱいで、周りを見る余裕が無くて、指導医の先生の愛情にも気が付かなかっただけなんだって思うわ。
そうやって厳しく育ててもらったから、ドクターとして自分は成長出来たんだし、感謝してるの。
あそこで、いい子いい子どうでもいい子って感じで適当に指導されていたら、今ほどには成長できてなかったって思うわ。
まだまだ、私も成長過程なんだけどね」
天城先生は僕を見て、優しく笑った。
物凄く、深い話をされていて、これはやっぱり、僕は更紗先生に、励まされているんだろうな……
「今は北村さんも大変だけど、今が成長するチャンスだし、ルミちゃんも口は悪いけど、優秀なナースだし、彼女に育ててもらって良かったなぁって思える時がくるわよ。
頑張ってね」
そう言われても、感情的には、ルミに感謝する日は永遠に来ないような気がする。
でも、それは天城先生が言っていたように、今の僕は目の前のことにいっぱいいっぱいで、視野が狭くなっているからなのかもしれない。
だから、いつかそう思えるようになったらいいなぁって気持ちを込めて、曖昧にうなずいておいた。
それよりも、はなっから苦手意識があって、近寄りがたかった天城先生との距離が少し縮まった事が嬉しくて、僕の心は先ほどまでの海の底って最低な気分から急上昇し、浮き立つのが判った。
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