情けない僕

4/7
前へ
/277ページ
次へ
「あ、天城先生」 声の主は、消化器外科ドクターの、天城先生だ。 体力がいる消化器外科のドクターは、男性が多い中で、天城先生のような女性のドクターは珍しい。 しかも、体力のありそうな体育会系ではなく、線の細い女性だ だけど10時間以上続く手術もこなしてるし、担当患者さんの容体が悪ければ夜中まで病棟にいて、でも、次の日になれば朝から元気に診察している。 その細い体の何処にそんな体力があるのか、と疑問だけど。 おまけに、美人だ。 化粧はしていないみたいだけど、肌は白くキメが細かい。 小さい卵型の頭部には、切れ長の涼しげな目や、すっと通った程よい高さの鼻、形の綺麗な口がバランスよく配置されている。 長い髪は、一つに束ねられているけど、細いストレートで、おろしたら、サラサラと綺麗に風に舞いそうなイメージだ。 知的美人という感じで、実は、ルックスだけで言えば、僕の好みど真ん中だ。 しかしながら、就職したばかりの頃、一番最初についたガーゼ交換の介助で、僕は大失敗してしまって、天城先生に冷たく叱られてしまって、それ以来、僕の中では苦手な人に分類されている。 「私も時々ここで食事するのよ」 微笑みながらそう言った天城先生の手には、売店の袋がある。 「外科医局って、男性ばかりだし、時々居心地悪くなるのよね。そんな時はここに息抜きに来てるの」 天城先生は僕の隣りに腰を降ろして、小さく息をついた。 素敵な人だとは思うけど苦手な天城先生を近くに感じて、僕の体は緊張でこわばった。 先ほどの眠気なんか、もうどこかに飛んでいってしまってる。 「北村さんも同じ理由でしょ? ここに息抜きに来てるの」 「えぇ、まぁ」 他に言い様もあるだろうが、緊張の余り頭が白く飛んでしまって、ロクな台詞が出てこない。 そんな自分に、眩暈がするほど嫌気がさした。
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

648人が本棚に入れています
本棚に追加