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「あ、天城先生」
声の主は、消化器外科ドクターの、天城先生だ。
体力がいる消化器外科のドクターは、男性が多い中で、天城先生のような女性のドクターは珍しい。
しかも、体力のありそうな体育会系ではなく、線の細い女性だ
だけど10時間以上続く手術もこなしてるし、担当患者さんの容体が悪ければ夜中まで病棟にいて、でも、次の日になれば朝から元気に診察している。
その細い体の何処にそんな体力があるのか、と疑問だけど。
おまけに、美人だ。
化粧はしていないみたいだけど、肌は白くキメが細かい。
小さい卵型の頭部には、切れ長の涼しげな目や、すっと通った程よい高さの鼻、形の綺麗な口がバランスよく配置されている。
長い髪は、一つに束ねられているけど、細いストレートで、おろしたら、サラサラと綺麗に風に舞いそうなイメージだ。
知的美人という感じで、実は、ルックスだけで言えば、僕の好みど真ん中だ。
しかしながら、就職したばかりの頃、一番最初についたガーゼ交換の介助で、僕は大失敗してしまって、天城先生に冷たく叱られてしまって、それ以来、僕の中では苦手な人に分類されている。
「私も時々ここで食事するのよ」
微笑みながらそう言った天城先生の手には、売店の袋がある。
「外科医局って、男性ばかりだし、時々居心地悪くなるのよね。そんな時はここに息抜きに来てるの」
天城先生は僕の隣りに腰を降ろして、小さく息をついた。
素敵な人だとは思うけど苦手な天城先生を近くに感じて、僕の体は緊張でこわばった。
先ほどの眠気なんか、もうどこかに飛んでいってしまってる。
「北村さんも同じ理由でしょ?
ここに息抜きに来てるの」
「えぇ、まぁ」
他に言い様もあるだろうが、緊張の余り頭が白く飛んでしまって、ロクな台詞が出てこない。
そんな自分に、眩暈がするほど嫌気がさした。
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