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[2]A(アキラ)
目覚めると、空は暗く日を落としていた。
過密な時間をぬっての旅行はやはり、かなりの疲れが溜まる。
アキラはまだまだ寝足りなかった。
車内で寝ると体のあちこちが痛い。
アキラはそっとジュンの枕になっていた自分の腕を引き抜くと、体を伸ばして筋肉をほぐした。
ジュンも疲れていたのだろう、起きる様子はなく、軽いいびきをかいていた。
ジュンの寝顔を見ながら、まだつい数時間前の旅行の記憶を思い出していると、ふいに何かが振動する音が聞こえてきた。
音をたどると、ジュンの携帯電話が振動していた。
やがて振動は止まったが、すぐにまた新しい振動を始めた。
ジュンはまるで起きそうな気配がない。よほど急ぎの連絡が来ているのだろうかと心配になった。
詮索したいという好奇心が立ったのかもしれない。
アキラはジュンの携帯電話をそっと握って画面を見た。
しつこい振動はメール着信のようだった。
着信通知に表示されていたのは、
『[オサム]様からメールが届いてます。』
オサム??
誰だ?
横目で見るジュンは、まだ全然起きそうな気配がない。
携帯電話のメール受信ボックスを開いた。
オサムからのメールはたくさん来ていた。
浮気の動かぬ証拠となる文章ばかりが並んでいた。
メール受信ボックスだけでなく、カメラ撮影の記録の中には今回の旅行に出発した日の昼に、アキラの見知らぬ男を写した画像まであった。
(バイトに行っきますとメールしてきたはずなのに…。)
恋愛したい盛りの女の子と付き合うからには、いつかこんな日も来るかもしれないとの不安は多少なりともあった。
しかし、それはジュンと付き合い始めた頃であって、今ではそんな不安は忘れていた。
いざ、今そんな場面とぶつかるとは思いもしなかった。よりによって、思い出となる二人きりの旅行の最後に…。
アキラは深呼吸をして落ち着こうと考えた。が、それを逆なでするように、またジュンの携帯電話が振動した。
『From オサム
今、何してるの?
次はいつ会える?』
アキラは見てはいけない地雷を見つけてしまったのかもしれない。
闇へと誘う、冷たい地雷を――。
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