1.

4/5
1991人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
 あまり積極的に勉強しなかった俺に否がある事ぐらいいくらなんでも分かるが、教師のその動作や発言の一つひとつに何かしらやる気を萎えさせるものがあるのも事実。    けれど、この教師は違う。   「タンジェントってのは……例えばさっきの直角三角形ABCの∠ABCを求めたい時、辺BCと辺ACの大きさを使って求める事が出来る。  ――今のやり方がタンジェントの求め方で、たまに底意地悪い先生はタンジェントの事を日本語表記で“正接”とかって書いたりするから、これもセットで覚えとくといいかな」    さらさらと紙面に描かれる文字やら線やらを追いながら、低すぎない落ち着いた声が聴覚を満たす。優しいと言うよりはどこかぼやっとした声に近いのだが、不思議な事に眠たくならない。    授業中にお辞儀草の如く頭を垂らす友人の一人がお前は特殊なのだと言っていたのを頭の隅で思い出しながら、大部分で必死に理解しようと脳を働かせる。   「あー、うん……その、何でそれがその方法で求められるかが分かんねーんだよなあ」 「方法ねー……裏使っていい?」    俺が頷くのを確認してから、先生はプリントを裏返す。何も書かれていない裏面に何やら図形を描き始めた。どうやら求められる理由を説明する気らしい。    
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!