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「――じゃあ、テストします」
初々しくどことなくほわっとした四月の教室。
女子は担任が若い男と喜び、男子は女教師でないにしてもお堅い老教師でない事に安堵したクラス分けの発表も、眠たい校長の長話がある始業式も終わり、いよいよ始まってしまった高校二年生初の授業。
教科は担任の久遠による数学。
女子達は喜んだ。が、
「範囲は一年の復習で――」
「えー、聞いてない!」
「抜き打ちかよ」
「有り得なーい」
どことなくぼやっとした声でテストらしき用紙を片手に説明する眼鏡の担任に、生徒達は一斉に不満の声を上げる。
「まあ、言ってないからね」
そんな生徒達に驚く程あっさりと肯定した教師に、一同呆然とするのも当然で、
「いやいやいや、抜き打ちって酷いじゃないですか!」
いち早く立ち直った俺は、誰もが思ったであろう感想をつきつける。
「先生もさっき春日(かすが)先生に渡されたから……諦めてやって」
春日先生と聞いた途端、教室内のあちらこちらから「ああ、春日ね」と妙に納得した声が上がった。
「……なあ、春日って誰?」
数学担当なのだろうが、去年俺のクラスを受け持っていたのは田所と言うおっさん教師で、春日なんて先生は知らない。
「去年後半クラス担当してた先生」
隣に座る伊藤瑞希(いとうみずき)に聞けば、知らないのかよと眉をひそめながらの答えが返ってきた。
瑞希とは初めてクラスになったのだが、名前だけはなんとなく耳にした事がある奴だった。
その理由はまあ、その“顔”だ。男の俺ですら整っているなと思える。
染めていない黒髪はやや癖があって毛先が色々な方向に飛び出てはいるものの、サラリと落ち着いている。身長は百七十超えで俺と同じ位。遺伝なのか肌は白い。
そして何より、ちょっと不真面目で時折授業をサボったり、その反面勉強や運動は人並みかそれ以上にこなせるクールな性格が女子を惹き付けるらしい。
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