SS集

12/17
前へ
/25ページ
次へ
『プレゼント』    まだ誰も袖を通したことのない水色のドレスに身を包み、純白のリボンで飾られた彼女は、さも満足気に踊って見せ、気恥ずかしそうに微笑んだ。    目の前で仄かに頬を染めている仲人は、学生用ブレザーの良く似合う素朴な女子高生だった。仲人に優しく頭を撫でられて、彼女は緊張感を和らげた。    彼女が案内されたのは女の子らしい雑貨と学用品が半々の、整理整頓された、けれどどこか愛らしい部屋だった。    仲人は時々彼女をとろんとした眼差しで眺めると、出会ったあの日のように優しく撫でた。    ある日、彼女は部屋を変えられた。そこは狭く薄暗い部屋だった。彼女はいよいよ彼の元へ、と早鐘を打つ胸に何とも言えない至福を感じたが、扉を閉める仲人の眼に光るそれを見たとき、言いようのない不安に襲われた。    不安は日に日に増す。仲人は現れない。    気が付くと扉が開かれていた。仲人は彼女の知る仲人ではなく、美しく成熟した大人の女性だった。    仲人は彼女を見つけ、物珍しそうに眺めると、自嘲気味に笑い、無垢のドレスを引き裂いた。    彼女は屑籠の底で思う。    私は誰だったかしら?   08/2/7
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加