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『スクランブル』
「スクランブルって、どんな意味?」
交差点の手前、真直ぐ前を見つめたまま、彼女が言った。
陣太鼓が打ち鳴らされ、様々な衣装で着飾った足軽たちは、我先にと戦場に繰り出していく。
だけど俺の脚は未だ陣内。微動だにしない彼女の傍ら。
「ごちゃ混ぜって意味じゃないか? スクランブルエッグってあるだろ?」
若者が脇目でこちらを睨み付け、舌打ちを残して雑踏に消えた。
「……混ざらない。卵じゃないもの」
見ていない見えるものを見ている彼女の無表情に表情を読む。
俺はそっと彼女を抱き締めた。彼女の肩がぴくっと震える。
赤になり青になった。
彼女の肩越しに見る混ざらない者たちはスクランブルできない。
赤になり青になった。
俺の肩越しに見る混ざらない物たちはスクランブルできない。
赤になり青になった。
赤になり青になった。
赤になり青になった。
俺たちはいつまでも、スクランブルしていた。
08/1/26
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