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『ある冬の朝』
昨夜遅くに降り出した雪は、窓から漏れる眩しい光を目蓋に感じ、渋々枕を手放す頃には、すっかり一面を純白に染め上げていた。
「積もった、積もった! 綺麗だなぁ」
いつの間にか起きだした彼が私の肩に手を置いて、眩しそうに目を細めながら嬉々として言った。
「……綺麗ね」
綺麗だ。夜の闇に舞い降りた頼りない天使は一夜にしてあの漆黒を白銀の世界に変えてしまった。眩しいくらいに輝くそれは、一点の曇りなく……ただ私を除いて。
「どうしたんだ?」
気が付くと彼が不思議そうに私の瞳を覗き込んでいた。
「雪は嫌い。自分の黒さが際立つから」
「その黒さこそ生きてる証さ。雪は冬の醍醐味なのになぁ」
彼はいつものようにからから笑うと、私を後ろから包み込んだ。それが私の黒さを請け負ってくれてるみたいで、少しだけ温かかった。
「冬は嫌い。死の香りが漂うから」
「俺は好きだな。生が際立つ。生きてるって感じがするから」
そう言ってまたからから笑った。屈託のない笑いは生気となって、少しだけ私に溶け込む。……温かい。
夏が似合う男だと思った。
08/1/31
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