SS集

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『時計』    彼が暴れだした。腹の底から怒鳴り声を上げて七時を知らせる。だから頭を撫でてやった。    飯を食い、出勤の準備も終わり、リビングで朝のニュース番組を見ていると、画面の隅で彼が申し訳なさそうに八時になることを告げた。鞄を掴み家を出る。    出社。時々彼を見るが、彼は意地の悪い笑みを浮かべながら、のそのそ歩いていた。当て付けみたいで癪に障るが、彼の嫌味はいつものことだ。    彼が社内に音楽を鳴らす。昼の彼は実に上機嫌だ。俺も釣られて鼻歌を口ずさむ。    昼食が終わった。彼がうとうとし始める時間だ。つまり俺にとって一番辛い時間。彼が眠りこくって歩みを止め、俺は眠くたって我慢するしかない。恨むぜ、ホント。    彼はまず部長にウィンクする。すると部長が大きく伸びをする。で、部長に近い席から伸びのウェーブが起こり、末端の俺に伝わる。まぁ彼は重役ですから。鞄を引っ掴み退社だ。    アフターファイブは最高だ。俺も彼も全速力。あっという間。互いに互いを忘れて、ふと鉢合わせる頃には、え、もう? 苦笑いするしかない。    おやすみ。明日も明後日も平々凡々な毎日を心からありがとう。   08/2/3
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